空閑俊憲の日記

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岡崎和郎「もうひとつのヒロシマドーム」構想

   
岡崎和郎「もうひとつのヒロシマドーム」構想      空閑俊憲 

 
 戦争を知らない人は多い。私もそのひとりだが、岡崎和郎は1945年8月6日遠く広島上空が不気味な光に覆われたのを目撃している。その二ヶ月程前かれのいた岡山でも激しい空爆があり、市内は焼け野原に変わった。かれは当時まだティーンネイジャーだったが、国から義務づけられた竹槍訓練に参加させられたという。しかし戦争はようやく終焉を迎えようとしていた。
 戦争を知らない私たちは、いま福島原発事故による放射性物質に不安を抱いている。科学が無言で私たちの日常生活に侵入していることにも気づかず、便利が優先で、工夫したり考えたりする時間を専門の技術者たちに任せている。日本ではとくにテレビやゲームに時間を費やす人たちが多い。電車のなかで携帯電話に見入る人たち、座席にずらりと並んで昼間から居眠りをする若者たち。街を歩く誰もが同じ顔をしている。共通の顔を思い浮かべて化粧しているのだろう。疲れている日本の若者たち。
 岡崎和郎はいつも目覚めている。この作品はクラゲのような脚で立っているが、それは原爆投下後に降った重油のような放射能を含み汚れたあの黒い雨の染みを象っている。造形的にとらえると、平面の始まりと果ての二辺をつなぎ円筒形がうまれる。こうして黒い雨は二次元から三次元へと拡大し、さらに垂れた雫と雫との空隙は私たちが失ったものたち、虚の次元を表白する。
 負の世界遺産に認定されている原爆ドームとは別に、岡崎和郎の「もうひとつのヒロシマドーム」を建てようではないか。そこでくりひろげられる希望に満ちた様々なイベントを、私は見たい。科学と人間との健全な共生への願いは作者だけではない。私たちの願いでもある。ちょっと待ってくれ、視界から消えていくものたち、堆積していく透明なものたちよ。

*「もうひとつのヒロシマドーム」は8月6日(広島記念日)― 8月15日(終戦記念日)の期間にかぎり「心 - 天を指差す」にかわって玉川台図書館で特別展示されます。


撮影:越後館長
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by Kazuo Okazaki
Tamagawadai Library in Setagaya-ku, Tokyo.
Aug. 6 - 14, 2011

A few days ago I stayed at Izu-nagaoka for catching beetles. The owner of the 200 years old house is a 88 years old man who is still working at tangerine orchard. He told me that he was in Hiroshima at 8: 15 am on Aug. 6th, 1945. He was only 2.5 km away from the center of the explosion. He saw the building was swelled and exploded. He stood in extraordinary silence and the city was vanished.