空閑俊憲の日記

PurpleTaraPress © Toshinori Kuga,2008-2014

眼の方角/空閑俊憲

          
電車に乗って今日僕たちが行く村は雨が白い針のように降るブロードウェイのSTAR MAGICのピンクとブルーのネオンに飾られた森の中にあり森の奥には昼の砂漠が星空に宙吊りになり巨大な砂時計となって時を刻んでいる僕たちの電車が刻一刻と横転する頃には星たちを飲み込んだブラックホールの底無しの欲望から逃れて流星となり突然太陽に衝突するかもしれない現実を幻想として片付ける訳にはいかない混沌の大渦巻が一億頭の象の叫びとなって僕たちを冒険へと誘う僕たちは抱き合うそれを僕たちの夢と呼ぼうと呼ぶまいと乗客の胸ひとつで決まるわけではないが車内では曖昧に物を見てはいけない曖昧さは一切禁じられて子供たちの好奇心に負けない厳しい調査が要求される車掌がときおり乗客の眼の検査にやってくる「眼を拝見いたします! 眼を拝見いたします!」鋏を鳴らしながら刳り貫かれた眼玉を蒐集する車掌はちゃきちゃきの眼科医でプレパラートへ身投げする人間の悩みをオブラートに包んで食べてしまう味覚の証人でもある彼はそれで食べているから文句は言えまいとMONKが言う乗客が一斉に文句を言えば競技場の十万の野次となり電車は竜巻となってぐるぐる回転する遠心分離機で振り落とされた義理はスキムミルク色のワイシャツを着てさっさと朝の会社へ出かける夜の会社へ出かけるのはチェダーチーズの十人姉妹で正確にはその一番末は美少年だガラス張りのナイトクラブでは今夜も彼ら人気スターの踊りの幕が開く「にんにんげんげん人間よおまえの眼玉はどこにある金出せ舌出せお尻出せ」桃色と水色の渦巻模様の傘に客の酔いももどよく回る客は皆口開けた魚の顔して天井からするりと垂れ下がった黒幕にぴかぴか光る鋏を手にして黒子たちが稲妻のようにぱっと現われては消える様をご覧になる横一列に並んだ十個の穴がチェダーチーズのお尻だと判ったときはもう遅い十人のウエイトレスはめっぽう高い勘定書を客に手渡すチェダーチーズの十人姉妹よありがとうスイスチーズの虚ろな眼を一時忘れることができたわ眼科医の美人秘書は因数分解を解いた青いノートを閉じ青い瞳を開く彼女の昔の夫は避暑地でパナマハットをかぶり葉巻を吸うハンフリー・ボガートに似ても似つかぬ男だった声を押し殺して数式を暗唱する婦人の唇は記憶を整理されないまま海を漂流した詩人に接吻される詩人のサングラスは黄色の街を紫色に変える詩人は「僕は」を何回も繰り返すことによって読者を巻添えにしたりはしない留守番を盲目にする鮃のがらんとした大広間で起きた事件の真相は誰にもわからない僕たちの電車はまもなく森の駅に到着します車掌の声が鶯の鳴き声と重なると乗客は一斉に席を立ち窓を開ける外では一段と激しくなった夕立の中を裸の子供たちが新品のストップウォッチを首にかけ走る子供たちよ誕生日おめでとうチックタクチックタク蝸牛の螺旋形の邸宅に谺する真珠色した生命たちよ怠ってはいけない毎日ストップウォッチをぴかぴかに磨けよ白い針の降る森の中を駆け抜けよ終着駅はもうすぐ傾いた道の向こうに見えて来る太陽に刻印された鳥影が果てしなく果てしなく伸びる草叢に黒いゴム手袋をはめた駅長がkのイニシャルの入った古い椅子を燃やして麒麟のように立っている千の氷柱の微笑と涙とを見極めるのは難しい森に覆われた星か星に覆われた森かすべてが今壊れたばかりの木箱の中で始まろうとしている






(写真:『檢眼圖』ケースのロゴ、瀧口修造岡崎和郎 共同制作、1977 )