空閑俊憲の日記

PurpleTaraPress © Toshinori Kuga,2008-2014

灰の味/空閑俊憲

               

これがぼくがこの世で見ることのできる
最後の景色だとしたら
ぼくはもっと真剣になるだろう
残雪の下に息づく温もり、この生命を
たいせつに思うだろう
枯れた草木の育む
愛おしい春への想い、愛に
女への想いをよせて
熱い涙を流すだろう



生まれた国の言葉で
海が勇気について語りかけるだろう
雨が人の悩みを
ぽつぽつと囁くだろう
風が生きていた頃のあなたの笑みを
耳もとまで運んでくるだろう



ぼくはまだ生きています
雪の上に立って
波音を聞きながら
長い髪を梳っています
今日は灰の味が
口の中に拡がり
悲しいのですが
不思議と愛の温もりを
感じているのです
まだ愛おしい女に
会えるような気がして
ひとりでやさしい気持に
なっているのです



これがぼくがこの世で見ることのできる
最後の景色だとしたら
ぼくは感謝に笑みを浮かべて
別れを告げるでしょう
雲隠れに走る満月に
女の素肌を思い浮かべるでしょう
青白く光る雪の丘を
あなたが振り向きながら
ゆっくりと登っていくのを
眺めるでしょう



ああ、人生は地上の蝉の命にも似て
なんと短いのでしょう
なぜ人は憎みあっているのでしょう
なぜ真実は歪んで見えるのでしょう
この冬景色に添えて
珊瑚のようなまるい真っ赤な実が
刺のある枝に成っています
微笑むあなたの美しい髪に
飾ってあげることができたら